2010年1月14日木曜日

『インドのことはインド人に聞け!』中島岳志著

(↑クリックで拡大出来ます。)
※『インドのことはインド人に聞け!』(中島岳志著・講談社のエッセンスをマインドマップに
まとめてみました。まるでパロディを描いている様な気がしました。伝統的なイメージのインド
とは、かなりかけ離れているからです。
衛星から見たインド。教科書で習ったインドから、よりリアルなインドに近づいてみましょう。


インドの国旗(いままであまり目にしてこなかった人も多いはず。)
本書は、一貫して、「現代インド人のメンタリティ」にスポットを当てています。
住居の定め方、食事、結婚、宗教、映画など、人々の生活から切り離せない、
身近な分野に触れながら、インド人の考え方が合理的、西洋的になってきて
いることを示唆しています。

インドと言えば、カースト制度やヒンドゥー教など、深く根付いた規範があり、そう
いった風習の中で柔軟に生きるのは難しいと考えていました。

ところが、現在、インド人は、日本人のように、伝統にとらわれない、新しい
ライフスタイルを生き始めているのです。

それがわかるのが、本書です。現代的なライフスタイルの中にあって、インド人の
心はどう変化していっているのか、が最大の注目点でした。

私は、「人の心」が政治や経済、つまり国を動かすと考えています。

インド人の心 の変化を知ることは、インド国家の行方を知る上で、最も重要な手がかり
となるでしょう。特にインド経済に関わりのある人には、必読の書です。
また、現代インド人を観察しながら、同様の変化をしている現代日本人のメンタリティ
の変化を客観的に問い直すことができる本でもあります。


インドのことはインド人に聞け! (COURRiER BOOKS)


『インドのことはインド人に聞け!』(中島岳志著)

☆インドはもはや幻想的な都市ではない
『インドのことはインド人に聞け!』(中島岳志著)は、インドで国内の読者に向けて書かれた
地元雑誌や地元紙の記事を元に、リアルな現代インド人の日常をレポート・解説しています。
本書を手にとると、 「インドに行くと人生観が変わるよ」、なんていうバックパッカーの紋切り型
のセリフも、そのうち聞けなくなってしまいそうな気がしました。

それは、“現代的な生活様式”が拡大しつつあるからです。

現在、経済力をつけたインド人の中間層は、経済的な豊かさだけでなく、文化的、
精神的豊かさを求め始めているのだそうです。

精神的豊かさの一つが「自由」

私が本書の中で最も衝撃を受けたのは、都市部に住むインド人の「結婚観」です。

意外だったのは、例えば以下のような事実です。

◆インドの都市部の若者のほとんどが、出会い系サイトで婚活をしている

◆しかも、日本人よりも堂々と「ネット婚です!」と言えてしまう

◆インドの男女の79%が30代を結婚適齢期として考えている(2007年調査)

かつては最も伝統に縛られて来たであろう「結婚」ですが、今では、相手探しの主導権は、
親から、本人へとシフトしていることが分かります。そして、文化的制約から自由になり、
「個人の選択」ができる場面が広がりつつあると言えます。

また、結婚は、同じ「カースト」間でなくてはいけない、というルールが守られているのだと
思っていましたが、“ほぼ同等ならよい”という様に、柔軟になってきているということです。

「カースト」は、「ジャーティ」と言われる職能集団のことを差すのですが、昔にはなかった
IT系の職業等の登場で、カーストと職能集団が一致しなくなって来ていることも背景に
あるようです。

社会がフラット化し、結婚や職業の選択が自由になることは、人々の幸せにつながるでしょう。
一方で、かつてのジャーティのコミュニティが薄れ、共同体意識が芽生えにくくなっているはずです。
日本と同じように、個人がバラバラになり、核家族化する中で、価値観が多様化し、逆に孤独や
不安を抱え込む人々が増えて行くのではないでしょうか。

本書によれば、最近のインドでは、“スピリチュアルブーム”まであるそうです。精神的な拠り所を
伝統的な宗教であるヒンドゥー教のみに見い出せない程、心に変化がおきているのでしょうか。

☆なぜインドでスピリチュアルブームが起きるのか

私は、インドの人々は、大地や伝統的な文化に癒されながら、
スローライフを生きているように思っていましたが、現実は違うようです。
現代インド人も受験や仕事のプレッシャーで、心の平安が得られにくい社会に生きているのです。

日本も外から見れば、「神社仏閣」や「日本庭園」があり、経済的に恵まれて、極めて衛生的で、
癒しの空間に満ちた国と思われているかもしれません。しかし、個々人は日々ストレスや不安を
抱え、スピリチュアル的な番組や、グッズが流行ったりしています。

同様に、インドの人々も、習慣的な宗教のほかにも、霊的な世界に救いを求めていることを知り
ました例えば、本書で紹介されている、「インディア・トゥデイ」の記事にはかなりのショックを受
けました。

「インドのシリコン・バレー」と呼ばれるバンガロールに住む、IT業界のビジネスマンについての話です。
“…確かに金銭面では豊かになった。だが、心の平安を得ることは出来なかった。そこで人々は占星術師やタロットカードの占い師、ヒーリングや宗教集団のグルなどに救いを求めて彷徨うようになったのだ。”(P106)
また、心霊治療のニューエイジ・グルは、人々が霊的なものを求める理由をこう説明しているそうです。
“企業は彼らに富をもたらしましたが、幸福をもたらすことはなかったのです。自分はいった何者だろうかと自問する人々は、その答えを知りたいと強く願い、霊的な世界へと駆り立てられています。物質世界に浸れば浸るほど、人はバランスを必要として、自らを支えてくれるスピリチュアルなものを求めるようになるのです”(p106~107)
インドでは、急激に社会や暮らしが変化しているため、人々の心がそのスピードに順応できなく
なっているような気がします。その不安感から、何かにすがりたい、という強烈な依存心が芽生
えているのかもしれません。

また、インドの人々は、強烈な「孤独感」におそわれている様に思えます。

人間関係の希薄化により、何かとつながっていたい感がより増大しているのではないでしょうか。

インドのTV局では、精神的な助言を与える「宗教チャンネル」が増設され、ヨーガの伝師が、

政治的介入も可能な、報道に進出しているそうです。

今後インドではますますセラピー的なものが商業化し、市場が拡大していくかもしれません。

そして、政治や経済にスピリチュアルブームが影響する可能性もあるでしょう。

このように、著者は、移りゆくインドの現実を見つめ、インドの中間層は日本人と同じような

苦悩をかかえている、と説いて行きます。変わりゆくインドと向き合うには、一方的に幻想を

抱き続けるのではなく、自分たちと同じような生活の中で不安を抱える仲間として見る必要が

あるということに気付かされました。

本書には、都市社会における中間層の生活が激変し、消費生活が拡大していることがわかる

ニュースがいくつも取り上げられています。英語学習熱から美容ブームまで、日本人と同じ暮

らしがそこにはあるのです。

市場としては沢山のチャンスがあるでしょう。

それだけでなく、経済発展の裏にある人々の心の変化を見落とさないためにも、

本書を是非手に取って欲しいと思います。

(※今回、レビュープラスさんのクーリエ・ブックスレビューコンテストに応募しています。)

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