2010年4月8日木曜日

生物物理学者大沢文夫先生の心温まるお話

先日、サイエンスカフェ・ガリレオ・ガリレイで、たまたま隣の席に座られていた、名古屋大学の先生が、

「今度このサイエンスカフェで、生物物理学者の大沢文夫先生の講義がありますよ。生物の分野のパイオニアの方で、寺田寅彦の孫弟子なんです。昨年雑誌ネイチャーのメンター賞を受賞されており、お年は80歳を超えられているので、貴重なお話が聞けるはずですよ。」


と周囲の皆に教えて下さいました。



私は、完全文系人間ですが、自然観察が好きなこともあり、「生物」「寺田寅彦さんの孫弟子」というキーワードに反応し、早速申し込みました。

理数系のテストから解放された今、純粋に科学の世界に感動できるサイエンスカフェは、私にとって癒しの場にすらなっています。それは、森羅万象を観察して、何かしら発見するのは、子どもの心に戻ることができるからです。そして、何より、哲学的な境地に至ることもあるからです


☆サイエンスカフェは気軽に参加できる空間!

科学に関する書籍も販売しており、学者の方のサインがずらりと並びます。イタリアンレストランでもあるので、なぜか、パスタも一緒にこのコーナー売っているのが不思議(笑)。










サイエンスカフェでは、 休日の午後3時~、2時間の授業を1000円で聴くことができます。

この日の参加者は、女性が約3分の1、小学生が3人ほどでした。

お菓子とお茶がついてくるのですが、このお菓子がまた絶品。この日は、ピスタチオとナッツが効いたケーキ。

男性が多いからか、甘みがおさえてあり、トッピングの素材が生きていて美味しかったです。すっきりして頭が冴える感じでした。






☆大沢先生とゾウリムシが教えてくれる、私たちの生き方


さて、この日の講演のテーマは、「生物の自発性の源について」。


「池に住む単細胞生物ゾウリムシは変動する自然環境の中で、常に住みよい場所を探してあちこち泳いでいる。この“あちこち”は自発的行動である。自発は、細胞の中の分子のどのような動きによって生まれるのか。単細胞生物の自発性は高等動物・ヒトの自由意志とは無縁のものではない。」


大沢先生は、80歳をすぎていらっしゃいますが、それだけに、人生の深みが感じられ、まなざしや雰囲気からも、研究が本当に好きだということが伝わってきました。




もともと、物理学を専攻されていたところ、人工筋肉の研究から生物の筋肉の研究をするようになり、最終的に生物学の研究が中心になられたそうです。








当初とは予定外の分野にたどりついたわけですが、他の人とは違う、物理学の視点をもっていたことがとても強みになったということです。自分の基盤となる専門性を身につけていると、別の分野に行っても、その世界で、独特のものの見方ができる貴重な人材になることができるのですね。


最初に勤務した研究室では、「何をやってもいいよ」と言われたそうです。
ほかにも、実験材料はどこかから分けてもらうのではなく、自分たちで動物の首をしめて(なかなか勇気がいりますね。)、すべて自前の標本を採る方針を貫いた研究室で働いたり、戦後でお金がなく、大学の池にいる生物しか使えなかった時代を生きた大沢先生…

すべて「自分で考えて、自分で調達して」という経験が非常によかった、としみじみ語られました。なんでも簡単に手に入る時代には「自発性」が衰えがちだ、と警笛をならしているようにも思えました。

講義のスライドには、大沢先生のやさしい文字が並びます。

ゾウリムシの自発性の話をしているのに、大沢先生が語ると、まるで人間界の話をしているかのようでした。
「自発性は生きものらしさの一つである」という表現に至っては、詩的にすら感じられます。

ゾウリムシですら、環境の変化に適応するために自発的な動きをするのに、人間が、受け身で、反射運動しかしないようになってしまったら、それはもう“いきもの”とは言えなくなってしまうのではないだろうか、そんなことを考えました。














☆環境に適応するには、仲間が大切


驚くことに、“自発性”は仲間が多いほど活発になるそうです。

それは、お互いに相互作用が働くことに関係するそうですが、仲間が多い方が新しいことを覚える記憶力も上がるそうです。記憶促進物質が出て、相互に影響するからだそうです。

大勢と一緒の方が、環境の変化にすばやく慣れるのは、私たちの体験からもわかります。
友達が沢山いる子の方が、情報量も多く、行動力も抜群ですよね。

話は20人学級の是非にまで及び、管理者側の都合で学級の人数を減らせばよいというものではない、と大沢先生は主張されました。大切なことは、多くの仲間を作って、お互いに議論を活発にすることであり、学校の先生に無条件に従うのではなく、自発的に歩むべき道を見出せるようになることなのですね。

自発性が損なわれた人間が社会に出てしまったら、会社がつぶれたら生きていけない人間になってしまいます。

ゾウリムシは色々なことを教えてくれるなあ(笑)。

☆細胞には2種類ある

・Active (noisy)cell・・・情報を作りだす騒がしい細胞
・Passive (quiet)cell・・・情報が来たときだけ、しっかり伝達する細胞

このお話を聞いた時も、細胞の社会も人間社会と似ているな、と面白く感じました。


実は、単細胞生物であるゾウリムシにも個体差があるようです。

いごこちのよい環境を求めて、水の中で快適温度のあたりを集団でさまようゾウリムシ。しかし、個々は、ひとところに安住することなく、常に手広くあちこち探索しているのだそうです。

環境が変化することに備えて、色々な場所に慣れるためなんですね。リスクを恐れず、さまようことが大事だ、と大沢先生はしみじみと語り続けます。

「…安住してはいけない、ということです。」


そして、生き物には、脱落するものも出てくるが、それも生きものらしさのひとつなのだ、とも。もしかしたら、ちゃんと環境に適応したゾウリムシの集団がいるところに、毒がまかれるかもしれない。そうなると、おちこぼれがひとりさまよっている辺りが安全になる可能性もある。実は、落ちこぼれにもいいことがあるかもしれないのです…

自発性の重要性を説きながらも、生きものへのやさしさを忘れない大沢先生のお話は、じーんと胸に響きました。



スライドにある、最後の言葉が印象的です。


「自然界では一ぴきだけでいることはありません。いつもなかまといっしょにくらしています。」


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